こいしノート

エッセイ読むのも書くのも大好き人間です、小説も。 

「あんポンたん」の梗概

 

猛暑が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。お元気なら、なによりです。

 

今日は前回に、お約束しました、ユーモア小説「あんポンたん」の梗概です。

第一部のエッセイは十二編からなり、十七人が登場します。そのうちの十一人は亡くなっています。

第二部になりますと小説に変わり、その人たちが極楽浄土にある、蓮華の花咲く池のほとりで、間もなく来るだろう、私を迎える同窓会を開きます。

西方十万億土の彼方まで旅し、疲れきった私は、一休みしてから参加することにして、車座になっている出席者の様子を見ています。

 

前置きが長くなりましたが、それでは始めます。なお……の間の文言は、省略箇所や状況の説明です。

 

左心房と左心室の間に僧帽弁、右心室と右心房の間には三尖弁(さんせんべん)がある。私はこの二つが閉鎖不全なので、ここ十四年、薬で進行を抑えていた。

しかしもう限界ということで、主治医が

「体力があるうちに手術しませんか、手術危険率は二%前後です。家の方と相談して下さい」と言う。

生き死には私ごと、考えることなく「お願いします」と、頭を下げた。

 

無影灯の照射が眩しい。「麻酔をかけますよ」医師の低い声。

「お願いします」

私は目を瞑り、麻酔が醒めなければ西方へ行く、そこには誰がいる? ふと思った。が、意識はそこまでだった。

 

……亡くなった十一人が同窓会の席上で、私の思い出を語るのですが、梗概なので、前々回のエッセイ「さしみの妻はいや」に登場する、長崎壱岐夫のだけとします……

 

「私は肝臓を壊して十五年前にここの住民になりました、長崎壱岐夫、五十一歳です。どうぞよろしく。

モッチン(私のニックネーム)と、大学三年の春、天城山を縦走しました。

万二郎岳から万三郎岳へ向かうと、伊豆の山々や大島、利島が美しい岩場に出ます。その風景に見とれていましたら、後から来た女性二人が、微笑みの会釈をしてくれました。

二人は大手銀行の静岡支店に勤めていて、少し色黒でぽっちゃりしているのは駿河浜子さん。やはりぽっちゃりしているのですが、透き通るほどの白い肌の女性は、藤枝静江さんで、彼女は夜間大学の学生でもありました。

私たちは偶然の出会いを大切にしまして、東西に別れる三島駅まで同行しました。

 

四日後、浜子さんから、手紙が来ました。

貴方が好きになった。再会場所の大瀬海岸の夜、ずっと二人でいたい。静江とモッチンがペアになってくれれば、望みが叶いますが、残念ながら、静江は面食いなので、モッチンには、なびかないでしょう。どうすれば二人になれるかを考えてください。

このような内容でした。

 

二日後、静江さんから

「私を好きになってください。そしてそれを愛に、更に恋に発展させてください」

と、書かれた手紙が来ました。

私も、静江さんが好きでしたので、天にも昇る心地になりました。

二人の手紙には、再会したいと書いてありました。なので、モッチンを誘いました。そうしましたら「一人で行けよ」と、不機嫌な顔で、つっけんどんに言うのです。友達がいのない男でしょう。

大瀬崎海岸での静江さん、ビキニの水着姿でした。縦走するさい、夜間大学に通うのは、弁護士になりたいからだと、言いました。

美人でグラマーで、向学心に燃える静江さんが、更に好きになりました。

こうなりますと、浜子さんが厄介です。なので、大瀬崎海岸で再会した時、モッチンを褒めまくり、交際を薦めました。そうしましたら、浜子さん、目を三角にして『見くびらないで!』でした。この話、モッチンにはオフレコで、お願いします」

 

……この言葉に皆が揶揄します……

 

「(みんな)嫌だ、嫌だ、オフレコは嫌だ。

喋りたい、喋りたい。

静江とは、どうなった、どうなった?」

「(壱岐夫)振りました」

「(みんな)嘘だ嘘だ。振られた振られた」

 

……冗談の掛け合いの後、壱岐夫が次の人を指名します……

 

次は静江さんより、もっともっと麗しい北見さん、お願いします。まさか、モッチンに恋した話ではないでしょうね。

「(みんな)ない、ない)」

 ごめんなさい、それです。

「(みんな) ええっ、ええっ) 」

 

……-無二の親友と思っていた壱岐夫に裏切られ、怒った私、声高に叫びます……。

 

「よくもよくも、ばらしたな。おまけにオフレコだなんて。俺もばらすぞ、静江に振られた時の醜態を。それと二人の手紙、自慢そうに見せただろ。見たら、行くわけない!」

 

……ところが不思議なことに、声が届きません……

 

……壱岐夫に指名された北見さんも、私の悪口です。続く九人もそうです。私は、いたたまれなくなり、残りの二人の話を聞く前に、閻魔大王に地獄行きを頼みます……

 

「地獄だと? 歓迎されなかっただと? どれもう一度、閻魔帳を見てみよう。ありゃりゃ、一頁,飛ばしてるぞ。

ヴェスペレを聴きに行った時、道に迷って女高生に案内してもらった、その際、お前は女高生を見習って、誰にも親切にすると、心に誓った。だが一度としてなされてない。

大雪が舞う夕方ちかく、市役所から駅まで女性に車で送ってもらった。その御仁が『困っている人を見ましたら、できる範囲で手を差し伸べて下さい、そういった輪が広がって欲しいの私』と、お前に頼んだ。

(前回のエッセイ「わかい日にであっていたら」)

だがこれも一度としてなされてない。この頁を飛ばしたのは我が落ち度。宜しい、叶える。ただし、元の場所にだ。

これから死ぬまで善意を施せ。さすれば、次に来た時、歓迎される。さあ、後ろを向け、手を伸ばせ、前屈みになって尻(ケツ)を突き出せ! そら、蹴っ飛ばすぞ、えーい」

 

……私は閻魔大王から蹴飛ばされ、麻酔から醒めます……

 

「あら、お目覚めね。私、主治医以外の担当(看護師)の榊マリコ、よろしくね。

患者さん、寝てた、二十六時間、面白いことたくさん言ってたわ。閻魔さま、地獄へ行かせてだなんて。

何人もの、女の人の名前、呼んでたわ。どういった関係だったの。誰にも言わないから、教えて。おほほほほ」

 

 ……極楽浄土で私を語る、残りの一人は小学校の恩師、もう一人は中学生の時に知った、違う中学の女生徒。恩師は私に同情し、女生徒は、逢いたい旨を切々と口にした。

同情した全員、声を揃えて私を呼ぶ。

「早く来い来い、あんポンたん」

「早く来い来い、あんポンたん」

女生徒が続いて

「早く来て来て、あんポンたん」

「早く来て来て、あんポンたん」 

 

次回のエッセイは、壱岐夫が話しました

「静江より、もっともっと美しい北見さんに、お願いします。まさか、モッチンに、恋した話じゃないでしょうね」

彼女の思い出を書いた、エッセイです。

 

 

 

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