喉元過ぎれば熱さ忘る
前回のエッセイ「生け花展」の入場券もそうだったが、他にもいろいろ貰う隣家へ、お裾分けにあずかった、八丈島の「くさや」を、それらのお礼に持っていった。
ピンポーンのベルで顔を見せたT男さん、「これはどうも、これ、大好物なんですよ」
と、顔をほころばせた。そしてすぐ
「ネットで頼んだ「獺祭」が、今しがた届きました。くさやを肴に一杯やりましょうや」
こいし、嬉しい誘いに即、突っ掛けを脱いだ。
奥さんのY江さん、くさやを焼きながら、冷蔵庫整理だと笑いながら言い、手早く多くの酒肴を調べた。そして、小さな宴会が始まり、そのうちY江さんが
「小学校四年になる孫の作文、面白いんですよ。お題は『将来、何になりたい?』でね、あの子ったら、こうなこと書いたのですよ。
『僕は犬になりたいです。理由は、何もしなくても、ご飯が食べられるし、ちょっと芸をすれば、おやつだって貰えるから』って。
そうしたら、先生、『のんくん(※お孫さん)は、犬にはなれないわ。でも、先生もなりたいな』ですって」
と、ほのぼのとした話の後
「ねえ、こいさん(※こいしのこと)、小学校の時の作文で、こういったのを書きませんでした? あったら、ぜひ、聞かせて」
多少、老けても愛くるしい人の願いは断れない、そこで
「・・・・・・雨が降ると外で遊べないので退屈です。なので寝ます。入梅時は毎日、毎日です・・・・・・」
小学三年時の触り(さわり)を話した。
「まあ、そうでしたの? こいさんらしいわ。で、先生は?」
「寝てばかりだと、カビが生えますよって、朱色のペンで書いてあった」
「まあ、面白い、のんちゃんの先生と同じユーモアね。次はT男さん。あなたの番よ」
と、愛情溢れる瞳で強いた。
「俺もかい?」少し考えていたT男さん、意を決したように
「六年の時『寒風の朝、麦踏をする、お百姓』という俳句を作ったんだ。だけど、先生、糞味噌にけなしたんだ。
『寒風も麦踏も冬の季語、二つは駄目って何度も言っただろ。それと、お百姓だけでは映像にならない。爺さんとか婆さんとか通学前の子供とか具体的に。これも何度も注意した』って、怒ったんだ」
耳にしたY江さん、即、「才能なし!」と人差し指でT男さんを指した。もちろん、笑みいっぱいで。
俳人の夏井いつきさんに、そっくりな口調だったので、こいし、大笑い。つられてT男さんも。真似した本人のY江さんも。
(※夏井さんが、出演者の俳句を「才能あり、凡人、才能なし」と評価する、プレバトというテレビ番組がある。こいしの愛好番組)
楽しい時を過ごし、帰宅して布団に入ると、大きな不安に襲われた。一週間前に大腸憩室炎で大出血し、意識を失った。それを内視鏡でクリップ治療を施した主治医が、退院のさい
「憩室炎の再発率は極めて高い。暴飲、暴食は絶対に避けるよう」と、言っていた。
ああ、それなのにそれなのにすっかり忘れ、超がつくほど飲み食いしてしまった。
再発したら? まんじりともしなかった、その夜のこいしである。
【猫額という Y江さんの庭のあじさいを、雨上がりに撮りました】
【Y江さんから頂いたアジサイを こいし 活けました 投げ入れ流で】
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